LOST CRESTS 〜roots of this world〜

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第四楽章(後編)〜未知なる過去〜

『おねえちゃんたちの目。目の前の力に踊らされている人間の目だね。そんな目で私を見て話を聞いているんだから、きっと信じてくれないんだろうけど、今話した神殿も祭壇も、おねえちゃんたちの世界の人たちとあの世界の人たちに昔全部めちゃくちゃに壊されたのよ!』

少女は激昂しながら泣き出してしまったが、我に返り話し続けた。

『おばあちゃんは昔、この世界とは違うところからたどり着いた何人かの人たちが迷い込んだ時に、みんなが助けてあげたんだって言ってたの。

知らないところからきたその人たちの話を沢山きかせてもらって、みんなまだ知らないことにワクワクしながら、自分たちの世界で出来ることを始めようとしていたの。その時の王様が、その人たちに新しいことを作り出すのに手伝ってあげてほしい、ってその頃のみんなにお願いしたの。その人たちをこの世界の仲間にしてみんなでもっと幸せな世界にしようって王様は思ってたんだって・・・。

でもね、迷い込んだ人たちの何人かは、自分たちがこの世界の人たちに色んなことを教えてあげながら、少しずつ自分達にしかない知恵を使って、自分達にだけ都合のいいことを周りの人たちを言いくるめるようになっていったんだって。でも、迷い込んだ人の何人かは、この世界の人たちが新しいことを始めるのを手伝って、一緒に助け合っていこうって言ってたみたい。

そしたら、その人たちの間でケンカが始まっちゃって、この世界の人たちも巻き込んだ戦争が起きた。そのせいで、この世界は2つの世界に分かれたんだよ。

分かれた2つの世界の偉い人になった別の世界の人たちは、このピピとエングゥの紋章を奪い合ったの。そしてその騒ぎの中でこの世界に迷い込んだ人たちが王様を殺しちゃって・・・。

本当は2つ必要な紋章のもう一つのニセモノを作って、それに祈りながら過ごしてきた可愛そうな人たちなんだって言ってた。みんな今まで騙されてるんだよ!?』


巫女たちのひとりエレーナが、少女から出た言葉に驚き、そして怒りを覚えて叫んだ。


「あなた、何を言ってるの?そんな話、嘘に決まってるじゃない!だって、2つの紋章が本物で2つとも揃っていたから、今まで私たちの世界はみんな幸せに暮らしてこれたのよ!本当はその紋章を使って私たちから何かをもらおうとしてるんでしょ?早くその紋章を・・・」

少女は巫女の言葉を遮るように、突然声高に言った。

『あたしがおばあちゃんから聞いたことがウソだって言うんだったら、じゃぁ、おねえちゃんたちはこの紋章がこんなに光輝いてるのを見たことがあるの!?今までおねえちゃんたちの世界で置いてあったこの紋章と、今そっちに残っている紋章が一緒に並んでいる時に、一度だってそんなことないでしょ!?だって、今まだそっちにある想像の紋章は昔の人が勝手に自分の都合で作ったニセモノなんだもん!!

ここに来るまでにおねえちゃんたちもかすかに聞こえてたと思うけど、もうひとつの世界で今捧げられている音楽も、おねえちゃんたちがピピの紋章へ捧げる音楽も、本当は同じ場所で一緒に二つの紋章に捧げられていたんだよ?でもそれも世界が二つに分かれてしまった時に、一緒に捧げられることはなくなっちゃったんだよ?

ひとつの紋章があるだけでも、おねえちゃんたちの世界もあっちの世界も急に乱れたりなんてしないんだよ。だっておねえちゃんたちが大切にしてきたピピ紋章へ捧げる音楽がおねえちゃんたちの世界で守られてきたんだから。エングゥの紋章がある世界もそう。ピピ、エングゥが愛してる音楽の力さえそれぞれあれば、ひとつの紋章だけでも人を助けてくれる力はそれなりにあるんだよ。でも、二つの紋章が一緒にあるときの本当のしあわせはもう誰も見ることができなくなっちゃった。おねえちゃんたちはそんなこと今まで何も知らずに楽しくやってきたんでしょ!?』

小屋の中は、すっかり紋章の輝きによって明るくなっている。

はじめのうちは、黒いドレスの少女の話す言葉がどうしても信じられなかったが、確かに彼女たちは紋章が光り輝くのを見たことはなかった。

それは今彼女たちの「ピピの紋章」と「エングゥの紋章」がすぐそばにあるからなのだろうか。それでは、これまで彼女たちの世界の祭壇で祈りを捧げてきたあの紋章は一体・・・?もしかして本当にニセモノの紋章・・・?

全く黒いドレスの少女の話に取り合うつもりもなかった彼女たちであったが、今ではその少女の言葉に耳を傾けるしかできなくなってきていた。

『おねえちゃんたちのさっきの目、本当に冷たくて、疑い深くて、知らないことに目を向けるキモチがない目だった・・・。さっき来たあっちの世界の人も同じだった・・・。

おねえちゃんたちが持っていた本物のピピの紋章とは別のこの本物のエングゥの紋章は、ここの先にある「創造の紋章の世界」で大切にされてきたものなの。だから、あっちにはニセモノのピピの紋章があったのよ。この2つの紋章は2つ一緒にないといけないんだよ・・・。

おねえちゃんたちだって今の目を見たら、あたしがまだウソついてるんだと思っているの、分かるよ・・・。あたしの言ってることがウソだと思ってるんだったら、もういいよ・・・。このピピの紋章返してあげるよ!!』

そういうと少女は再び泣き出してしまった。

それを見ているしかなかった巫女たちの一人ミーニャが、静かに少女に語りかけた。

「ねぇ、おねえちゃんたちと一緒にあっちの世界の人たちに会いに行かない?
大丈夫。その紋章はあなたが二つとも持っていていいから。」

ミーニャの突然の言葉に少女はびっくりしたように、彼女たちを大きな目で見つめた。彼女たちも少女に語りかけた女性に目を疑ったが、でも、その言葉が何を意味しているかはなんとなく分かるような気がしていた。

「さ、おねえちゃんたちと一緒にいこ?」

少女の手をひきながら、巫女たちはもう一つの世界へと歩きはじめた。

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