LOST CRESTS 〜roots of this world〜

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第四楽章〜発見〜

紋章を探し回った巫女たちは、奉納の間からさほど遠くないながらも、長いこと使われていない小屋を遠くに見つけた。

その世界の民衆も近づくことのない地域にある小屋の周りは、陽が暮れた静寂と闇をさらに黒く染める、暗黒に包まれていた。そしてこの周辺から少し離れた場所には、今彼女たちの世界でピピの紋章を待つ民衆たちとは生活を違える、黒いドレスに身をまとう人々が暮らす世界がある、というのを巫女たちは以前から聞かされていた。

だが、さほど遠くない2つの世界でありながらも、それぞれの民衆たちが交わるということはなかった。

紋章を探す巫女たちの耳に、普段聴きなれない音楽が遠くから聴こえてくる。その音楽をかなで、歌う音には、創造力に溢れながらも真摯で狂気に満ちた印象が聴いて取れた。

「この音楽と世界観の違いが私たちの世界との間に見えない境界線を産んでいるのかもしれないね・・・」

巫女の一人ウーパが、ふとそんなことをひとりごとのようにつぶやいた。

このあたりの明らかな空気の違いは、創造から生まれる混沌がもたらしている。
けれど、どこかで懐かしい感覚も彼女たちは覚えていた。

少しずつ近づく小屋にほのかな明かりが灯っている。
扉もない、布きれ一枚で仕切られた入り口のある小屋へ、ミーニャ、エレーナ、ウーパの3人の巫女たちは恐る恐る足を近づける。

「すみません。どなたかいらっしゃいませんか?」

エレーナが少し怯えた感じで尋ねると、中からさみしげで震えるような声で「来ないで・・・」と返事が返ってきた。

ピピの紋章を探す巫女たちはお互いを見合わせたが、彼女たちの世界の方にふと目を向けると、普段は柔らかな空に輝く星たちが、すっぽりと暗闇でも分かる真っ黒な大きな雲で隠され、その奥でここまで聞こえてくる雷鳴と風の音が支配している。

このままでは時間がない、と意を決した彼女たちは小屋の入り口の布を勢いよくまくりあげた。そこには、着古してボロボロになった黒いドレスに身をまとう長い髪の少女が、彼女たちの世界から失われた「ピピの紋章」と、もうひとつ彼女たちの世界にあるはずの「エングゥの紋章」を大切そうに手に握り締めて椅子に座っていた。

「なぜ?なぜ、ピピの紋章だけでなく、エングゥの紋章がここにあるの?ふたつの紋章が消えているのなら、私達の世界の平和はすでに失われているはずなのに・・・」

そうつぶやくミーニャはもちろん、3人はその事態に混乱し理解することができなかった。

混乱する巫女達に向かって、黒いドレスの少女はこちらも見ずに泣き出しそうな表情でつぶやいた。

『どちらの世界でも私は受け入れてもらえなかった・・・おねえちゃんたちは自分たちだけのためにここに来たんでしょ?』

巫女たちは、自分たちが悪いことをしているかのような少女の言葉に耳を疑った。
しかし、驚いたことに、ふたつの紋章は呼応するように自然にほのかに光りだしている。それまで彼女たちが一度も見たことのない瞬間が起きている。

黒いドレスの少女が続けた。

『あたしのおばあちゃんのそのおばあちゃんのそのまたおばあちゃんからの言い伝えでね、おねえちゃんたちの世界と、ここからすぐ近くの世界はもとはひとつの世界で、みんな仲良く暮らしていたって聞いてきたの。

ここはね、本当はその隣に大きな祭壇と立派な色がいっぱい使われた神殿があった場所。そして、この家は、その頃の番人が暮らしていた家なのよ。』

巫女たちは少女が言っていることなど信じられなかった。

「こんな家に住んでいるんだ。きっと何か食べ物や私たちの生活で使うものをめぐんでほしいだけの戯言に違いない・・・」

そう思っていた。しかし、少女の言葉が熱を帯びるにつれて、ふたつの紋章はさらに輝きを増している。

第四楽章へ・・・

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